社会情勢

社会が愛着障害と向き合うための5つの観点|人々が互恵的に安全基地となることで、愛着障害を救い新たに生み出さない社会に近づける

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昨今、愛着障害への注目度が高まっている。愛着障害に関する書籍の出版が相次いでいることからもわかる。この文章では、その愛着障害へ社会全体で向き合うための5つの観点を述べる。

愛着障害の概要

さまざまな定義があるが、この文章では愛着障害を以下のように定義する。

・愛着障害と愛着スペクトラム障害が同義。
・狭義の愛着障害が反応性愛着障害を指す。
・広義の愛着障害は、狭義のものと、不安定型愛着により支障を来している状態を指す。

これは「『愛着障害 子ども時代を引きずる人々』岡田 尊司 光文社新書 初版」にて説明されているものだ。以降の症状や治療についても、岡田 尊司氏の書籍から用いるものが多い。また、愛着スペクトラム障害のスペクトラムとは、症状が曖昧な境界を持ちながら連続していることを意味する。

社会が愛着障害と向き合うための5つの観点

社会が愛着障害と向き合うためには5つの観点があると考える。

1症状
2関連法案
3罹患
4治療
5相互扶助

1 症状|対人関係や生きる意欲へ悪影響が及ぶ

愛着障害を抱えていると、対人関係や人生に課題や困難を抱えやすい。

対人関係への影響

周囲の人に適度な信頼を持てない。いたずらに不安を感じてしまう。そもそも他人への信頼に興味が持てない。このような人間関係の悩みには、愛着障害が関わっていることが多い。
愛着障害は、不安定型愛着スタイルを原因とする。不安定型愛着スタイルは対人関係に問題をつくるきっかけになりやすい。例えば、回避型と呼ばれる愛着スタイルを抱えていると、パートナー(妻や夫、恋人など)の感情に共感することが難しくなることがある。不安型の愛着スタイルを抱えていると、パートナーに対する要求が社会一般のものより過大になりやすい。過剰に好意の承認を求めたり、過剰なコミュニケーション頻度の要求などだ。不安定型愛着スタイルは対人関係に問題をつくるきっかけになりやすい。幼いころに安定した愛着を築けず、他人への不信感を抱えることが建設的な人間関係を築きにくくしている。他人を信じることができず、人間関係を避けるか、人を求めても多くの不安を抱えるかにわかれる。前者が回避型愛着スタイル、後者が不安型愛着スタイルである。

人生との向き合い方への影響

また愛着スタイルの影響は対人関係のみに収まらない。人付き合いの型である愛着スタイルは、生き方にも大きな影響を与える。
例えば、回避型の愛着スタイルを抱えていると、自分の人生に対する積極的な行動をとることが難しくなる。自分の人生であるのに、どこか流れされるような生き方に終始しやすい。彼らは自分を大切にすることを身に着けられていないことが多い。愛着スタイルが確立される段階で自分が大切にされていないと感じるためである。すると、人生に対する無気力さや無関心さ、投げやりさを覚えやすい。悩みがある状態ときに仕事のやる気が出にくいことを想像していただければわかりやすい。

愛着障害の詳細を以下の記事で詳しく説明している。

「愛着障害」とは?|他者から見捨てられるかもしれないという不安だったり、人との親密な関りを避ける回避だったり、その両方があり、人間関係に困ったりするもの 愛着障害とは、他者から見捨てられるかもしれないという不安だったり、人との親密な関りを避ける回避だったり、その両方があり、人間関係に困...

2 関連法案|愛着障害者への差別は禁止されており、合理的配慮が求められている

『障害者基本法』、『障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律』、『障害者の雇用の促進等に関する法律』の3つの法令が、特に愛着障害に関わるものである。「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(略称、障害者差別解消法)」により、「不当な差別的取扱いの禁止」・「合理的配慮の提供」の2つが求められている。

「不当な差別的取扱い」とは、「行政や事業者が、正当な理由なく障害を理由とした差別をすること」である。「合理的配慮」とは、「行政や事業者が、障害のある人から社会障壁を取り除く要望が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応すること」である。

・(「不当な差別的取扱いの禁止」とは?)
この法律では、国・都道府県・市町村などの役所や、会社やお店などの事業者が、障害のある人に対して、正当な理由なく、障害を理由として差別することを禁止しています。
・(「合理的配慮の提供」とは?)
障害のある人は、社会の中にあるバリアによって生活しづらい場合があります。
この法律では、役所や事業者に対して、障害のある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられてとき(*)に、負担が重すぎない範囲で対応すること(事業者においては、対応に努めること)を求めています。
【*言語(手話を含む。)、点字、拡大文字、筆談、実物を示すことや身振りなどのサインによる合図、触覚など様々な手段により意思が伝えられることをいいます。通訳や障害のある人の家族、支援者、介助者、法定代理人など、障害のある人のコミュニケーションを支援する人のサポートにより本人の意思が伝えられることも含まれます。】
(引用 :『 【全体】リーフレット「「合理的配慮」を知っていますか?」 印刷用』内閣府)※ここでの法律とは障害者差別解消法のこと。
・(「憲法」の関連条文)
第二十七条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
・(「障害者基本法」の関連条文)
(雇用の促進等)
第十九条 国及び地方公共団体は、国及び地方公共団体並びに事業者における障害者の雇用を促進するため、障害者の優先雇用その他の施策 を講じなければならない。
2 事業主は、障害者の雇用に関し、その有する能力を正当に評価し、適切な雇用の機会を確保するとともに、個々の障害者の特性に応じた 適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るよう努めなければならない。
3 国及び地方公共団体は、障害者を雇用する事業主に対して、障害者の雇用のための経済的負担を軽減し、もつてその雇用の促進及び継続を図るため、障害者が雇用されるのに伴い必要となる施設又は設備の整備等に要する費用の助成その他必要な施策を講じなければならない。
・(「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」の関連条文)
(目的)
第一条 この法律は、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)の基本的な理念にのっとり、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めることにより、障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と 個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする。
(国民の責務)
第四条 国民は、第一条に規定する社会を実現する上で障害を理由とする差別の解消が重要であることに鑑み、障害を理由とする差別の解消の推進に寄与するよう努めなければならない。
(行政機関等における障害を理由とする差別の禁止)
第七条 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。
(事業者における障害を理由とする差別の禁止)
第八条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実 施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、 社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。
(事業主による措置に関する特例)
第十三条 行政機関等及び事業者が事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和三十五年法律第百二十三号)の定めるところによる。
(引用 : e-Gov法令検索(http://elaws.e-gov.go.jp/))

3 罹患|「安全基地」の不全が原因

安全基地とはいざというとき頼ることができ、守ってもらえる居場所であり、そこを安心の拠り所、心の支えとすることのできる存在である。そして、外の世界を探索するためのベースキャンプでもある。トラブルや危険が生じたときには、逃げ帰ってきて、助けを求めることができる。しかし、いつもそこに縛られる必要はない。良い安全基地とは、本人自身の主体性が尊重され、彼らの必要や求めに応える人のことをいう。
その安全基地が持てないことが、愛着障害の原因である。愛着の原点は親との関係であり、そのプロセスに躓くことで、不安定型愛着を身に着ける。

4 治療|「安全基地」をつくり「認知」を変える

「愛着の傷をいかに克服し、安定した愛着スタイルをもつことができるか。また、不安定な部分をいかに補えるか」が重要になる。安全基地を見つけることから回復は始まり、過去の傷を見直すことで現在まで続く悪循環を解決することになる。

治療法

治療には、その人の安全基地となる存在が助けになる。安全基地は対人関係において、その人が安心できる人のことである。幼児が不安になったときに、「ママ・パパ」と駆け寄るような相手である。幼児はそのように安全基地を頼り安心することで、また活発に行動できるのである。安全基地とは自分という存在が無条件に受け入れられる場所なのである。自分が何を感じ、何を思っているか、安心して話すことができる相手が安全基地になりえる。そのように自分が受け入れられると、自分の人生に対する主体性や責任を得ることができる。自分が大切にされることで、自分を大切にできるようになるのである。
愛着の安定性には、「認知」が深く関わっている。体験することをどう認知するかが愛着の安定性にとって大事なのである。不安定型愛着スタイルを抱えていると、事態を悲観的に認知しやすい傾向がみられる。では、「認知を悲観的なものから変えることによって、愛着が安定化するか」というと、そうはなりにくい。愛着が安定化した後で認知が変わることが、大多数を占めている。安定した愛着の人は、体験したことにしっかり向き合う。その向き合い方も客観的であり、前向きなものになりやすい。心情的な過剰反応をするのではなく、事実を客観的に受け止めることで、事態に冷静に対処することができる。

誰が治療できるのか

愛着障害を克服するには、安全基地となってくれる人がいることが重要である。誰が治療でいるのか、それは誰が安全基地となるかと言い換えることができる。安全基地がいることで、愛着を安定化することができるのである。親が安全基地として機能しない場合は、代わりの人が安全基地として機能する必要がある。困ったときに駆け込むことができる避難場所であり、安心できる居場所としてもらう。そうすることで、安全基地に駆け込む人は、安心でき、愛着の安定化を得ることができる。不安定な愛着スタイルにより人生に課題を抱えている場合も、愛着を安定させることでその課題に向き合っていくことができる。
また安全基地となる人には条件がある。それは、安全基地となる人の愛着が安定していることである。安定型愛着スタイルである人ということだ。かつて不安定型愛着スタイルを抱えていた人であっても、それを克服していることが必要である。パートナーや家族などが信頼できる安全基地として役割を果たしてくれることもあるだろう。そのように、身近にふさわしい人が見つからない場合は、信頼できる専門家も安全基地となってもらうのに適任である。

安全基地をつくり、その後愛着障害を克服するながれについて、以下の記事で詳しく説明している。

愛着障害の克服方法は?|「安全基地」をもち自身の「認知」を変えること 愛着障害の克服は、安全基地を見つけることから始まる。安全基地とともに、自分の過去の傷を見直していく。過去から現在まで続く傷を乗り越え...

5 相互扶助|皆が、「安全基地」を頼り、自らも誰かの「安全基地」になる

・誰もが他人から愛着への影響を受け、他人の愛着へ影響を与えている。
・愛着障害はスペクトラム障害である。
・誰もが愛着障害になりえる。
この3点から、「社会の構成員が相互扶助で愛着障害と向き合う」ことが必要だと考える。

「愛着」とは何か

愛着障害の「愛着」とは特定の人に対する特別な結びつきのことだ。また、人格のもっとも土台の部分を形造っているものである。脳内のホルモン作用がかかわる生理学的な仕組みである。

愛着や、その型である愛着スタイルについて、以下の記事で詳しく解説している。

「愛着スタイル」とは?| 人間関係や生き方に大きな影響を与える 「愛着スタイル」というものがある。人付き合いで悩みをかかえていないだろうか。周囲の人に適度な信頼を持てない。いたずらに不安を感じてし...

愛着障害がスペクトラム障害であること

愛着障害の定義には狭義と広義がある。愛着スペクトラム障害とは岡田 尊司 氏が提唱するものだ。愛着障害には虐待や親の養育放棄による「反応性愛着障害」がある。岡田氏はそれを狭義の愛着障害としている。そして不安定型愛着により支障を来している状態と、狭義の愛着障害を合わせて、広義の愛着障害としている。愛着スペクトラム障害のスペクトラムとは、症状が曖昧な境界を持ちながら連続していることを意味する。

誰もが抱え、誰もが当事者

誰もが愛着障害になりえる。愛着は大人になった後でも、他者とどんな関りをするかによっては、ネガティブな影響を受ける。スペクトラム障害であることもあわせると、誰もが愛着障害を抱えることと身近であるといえる。実際、「『愛着障害 子ども時代を引きずる人々』岡田 尊司 光文社新書 初版」によると、不安定型愛着を示す人口は全体の「三分の一」にも達するようだ(*1)。愛着障害はスペクトラム障害であり、程度に差はあれ、愛着障害を抱える人は身近にも多く存在することになる。

(*1)2011年発行の書籍、調査の詳細は本文に未記載。著者に対するこの記事執筆者の信頼性から引用することにした。

結論

誰しもに「安全基地」があり、自らも誰かの「安全基地」となる。愛着について、相互扶助が行われる社会にする。そうすることで、効率よく愛着障害と向き合うことができると考える。愛着障害の罹患経路・症状は多くの人が経験する。互恵的に安全基地となることで、愛着障害となったものが救われ、新たに生み出さない社会に近づくと考える。

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